読後感

玉岡かおる著「をんな紋」(あふれやまぬ川)を読んだ。前に「天涯の船」も読んで、すこぶる感銘を受けた作者である。
読み終わって、今回の大戦に、夢も希望も打ち砕かれ、はかない一生を強いられた多くの人々の苦悩、無念さというものを改めて思い知らされた。特に文中、芹生家三男の豪男(たけお)が亡くなる直前に母の袖喜(ゆうき)に伝えた言葉、「引く勇気を持ちたかった」が心に響いた。そこの部分を引用してみよう。
「多少の見栄や意地をかなぐり捨てても、僕は思い切って方向転換ができる勇気を持ちたかった。僕はずっと、みんなが思うような男であろうと無理ばかりしてきた。勝つことだけを目標にしてきた。今の日本もおんなじや。みんな、方向転換する勇気がないんや」、「僕はずっと前へ前へ、突き進んでいくことだけを教えられて来た。それで散っても、男として本望やと、そう思うて来た。けど、いざ散っていく今は、やっぱり時間が惜しい。僕にももっと、やりたいことがあったんや」
若くして一流の技師となり、艦船製造に命をかけた豪男の死ぬ間際の言葉であった。
享年24歳、妻もなく子もなく、まだその将来にやり残したことの総量の方が多い、惜しまれて惜しみきれない死であった。
「前へ前へと突き進む」ことも立派な生き方ではある。それに加えて、打たれ強さとか、押してだめなら引いてみな、急がば回れ、無駄死にはするな、といった中途で挫折しないための柔軟な考え方、処し方がまた大切と言っているのだと思う。
先々のことまでよく考えて、決してあきらめず、無茶はしないでやるときはやる、をこれから心がけることとしよう。この本にはまだまだ続編がある。続きを読むのが楽しみだ。    (了)