作家「冨士本由紀」

暑さにかまけて「冨士本由紀」を続けて3冊も読んでしまった。「けだるい無性」の後「氷砂糖」、そして「つめたい彼女のつめたい悩み」と続く。小説すばる新人賞受賞作「包帯をまいたイブ」は私の通う図書館には無かった。いずれ、どこかで見つけようと思う。
この暑さの中で読み易いというと、いかにも骨のない小説と言っているようだが、別にそういうことではなく、中々読み応えがあった。本の厚みが適当で長ったらしくなくて良かったということだ。「氷砂糖」などは短編集であった。
3冊目の本は鹿爪らしい題名がついているが、内容は、場末でちっぽけな劇団の脚本家を務める主人公、宗子(そうこ)が劇団が立ち行かなくなったのを潮に、一念発起して、ある企業のプランナーとしてもぐり込み、持ち前の負けん気の強さと実力も発揮出来、他を蹴落とし、敵を多く作りながらも制作チーフにまでなって会社のために尽くすが、所詮、組織の中での持ち駒の一つに過ぎず、都合よくこき使われ、使い捨てにされるだけと悟って、そこをスッパリとやめ、また元の劇団の立て直しに戻っていくというストーリーで、女性たるが故の葛藤と悲哀もよく書き込められている。
例のとおり表現力に優れ、話のテンポもトントンと軽快で、現実にあり得るような内容についつい引き込まれてしまった。
これらを読んで、この夏の間に、何か自分の考え方なり生活態度に厚みが出たような気がする。この主人公の宗子は才能もあり、やる気十分なのにそれが報われず、挫折感にさいなまれているのが可哀相だが、こうした所に現実味がある。「若い内は、大いに自分の夢の実現に精力を注ぎ込むべし」と著者が言っているように思えた。もう若いとは言えなくても気を若く持って、自分の夢の実現を目指すのも、やはり本道と言えるのであろう。時々は足元に目をやることも忘れないで…             (了)

氷砂糖

氷砂糖

つめたい彼女のつめたい悩み

つめたい彼女のつめたい悩み