生(いきる)

柳美里(yuu miri)の「生(いきる)」を読んで大いに感動した。
小説というよりも本人の伝記に近い。正に最愛の彼の肺癌末期の闘病生活を、作家であり、幼い子の母(それもシングルマザー、彼の子ではない)としての彼女が必死に看病する。
彼とは劇団、キッド・ブラザーズで知り合い、彼(劇団の主宰者か)が39歳、彼女は16歳という年の差ながら、彼に文才を見出され、世に出させて貰った恩人として慕い、初体験の相手でもある。16年間、一緒に生活をした。「生」の他に「命」、「魂」と連作と思われるような著書があるが、題材としていかにも重苦しく、私は今のところ、この「生」一冊で十分である。
よって、彼女の生い立ちの全てが分かった訳ではないが、自由奔放で一途な彼女の生き様に対し、思いやりがあり、茶目っ気もあって人を引き付けずにはおかない魅力たっぷりの彼との涙ぐましくも悲しい結末へと向かっていく記述には鬼気迫るものがある。
彼には同じ劇団仲間で皆、お互いに親しい独身女性が他に2人もついていて、3人で交替しながら彼の付添い看護をしている。1人はステュワーデスであり、もう1人は劇団員で、それぞれ仕事の合間を縫って献身的に彼に尽くしている。
この「生」一冊だけでは、そうした愛憎の奥深い所が不鮮明なのは仕方ないとして、作家としての「柳美里」の面目躍如たるところは十二分に伝わってきた。
癌という病を憎む。特効薬はないものか、早く創り出して欲しいと思う。   (了)

生(いきる)

生(いきる)