カシコギ

趙昌仁著「カシコギ」を読んだ。治る見込みの殆どない「白血病」で苦しむ息子を懸命に看病し支え続ける父親の姿に感動する。母親とはソリが合わず早々と離婚し、一人で身体を張って誠心誠意子供の病に立ち向かっている。
仕事としては出版社に出入りする「詩人」であり、収入は不安定で、常に息子の治療費の工面に追いまくられている。
終局は奇跡的に子供の骨髄移植が成功し、子供(10歳)は母親に引き取られていくが、父親は心身ともにボロボロになっていて、自分で気付いた時には肝臓がんの末期症状と分かり、父親としてのやるべきことはやったと一人静かに淋しく亡くなっていく。何とも悲しい結末だが、全編に父親としての我が子への切々たる愛情、責任感がひしひしと伝わってきて心が揺さぶられる。世の中にはこうした厳しい状況下にある病人(特に子供)、そしてそれを見守り支えている家族が多くいる。改めて家族ともども健康であることの幸せ、大切さをしみじみと感じる。
ところで「カシコギ」とは、トゲウオ科に属する魚で、日本では一般には「トミヨ」と呼ばれる観賞魚である。トゲウオは雄が巣を作り、子どもを育てる習性があるという。成熟した雄は、柔らかい藻や水草をくわえてきて巣を作り、産卵にやってくる雌を待つ。そしておなかの大きくなった雌を巧みな求愛行動で巣に誘い込み産卵させる。その後、孵化した稚魚がひとり立ちするまで、巣を補強したり外敵から守ったりといった、涙ぐましい努力の末、1年という短い生涯を終える。まさに、この小説の内容を暗示するような習性である。                (了)