草原の風

読売新聞の連載小説「草原の風」、宮城谷昌光作がおもしろい。主人公の龍秀の知略、深謀遠慮、勇敢さ、そして人をあやつる巧みさに感服させられる。そして何よりも増して彼の人となりというか人徳があり、よく出来た人なのである。度量が広い。彼は大きな目標に向かって一歩一歩進んでいく。偉くなっていっても決して自分を見失わず謙虚さを保ち、人の意見を良く聞く。5/21の記事でその一端がよく垣間見えたのでここに抜粋してみよう。
「人の心情を察することに長けている龍秀は、−−降将(戦に負けて降伏してきた将)たちは、不安で、夜もねむることができまい。と思った。そこで降将たちをもとに帰して、兵を整えさせたあと、閲兵することにした。降伏した賊兵を掌握できれば、かれらは安心する。閲兵の際、なんと龍秀は軽装で馬に乗って、みまわったのである。もとの賊の将と兵が邪心をいだいて、龍秀を襲えば、やすやすと殺すことができる。それを承知で、龍秀は降将たちに声をかけた。その姿をみて、その声をきいた降将たちは、邪心をおこすどころか、感動した。龍秀の閲兵が終ったあと、かれらはたがいに、「しょう王(龍秀のこと)は、赤心を推して人の腹中に置いた。そうまでしてくれたしょう王に、どうしていのちをささげないでおれようか」と、語り合った。赤心とは、まごころである。自分のまごころを他人の腹のなかにあずける。それが、赤心を推して人の腹中に置く、という表現の意味である。ここまで信用してくれた人に、いのちがけで応えたい。降将たちはついに龍秀に心服した。
龍秀は昔から賊にたいしては寛容を示してきた。かれらは苦しまぎれに賊になったにすぎず、もとは民である、と龍秀はいってきた。民の屍体の上に建てた政府に、どれほどの意義があろうか。民を活かしたい、というのが龍秀の主張であり、その主張通り、降伏した賊を活用した。龍秀軍はますますふくらみ、強固になった。」
これから先も楽しみである。    (了)