読後感

乃南アサ著「火のみち」上、下巻を読んだ。主人公、南部次郎は戦後間もない頃の生活苦を子どもの頃から嫌と言うほど味わってきた。親とは死に別れ、まともに小学校も出られず、純粋な子供心でひょんなことから大人をひとり撲殺してしまい、大事な青春時代を刑務所生活10年、その間に憶えさせられた、土をこねて箸置等を造る陶芸の技に興味を覚え、シャバに出てから涙ぐましい努力の末、陶芸家として何とか生計の道を見出していく。新鋭の陶芸家として巣立とうとする大事な時期に、彼は中国古来から伝わる青磁の青に魅せられ、その再現をめざしてがむしゃらに、まともな生活も何も投げ打って、それ一筋に突き進んでいく。その芸術家として目覚めたような、一途さに圧倒されてしまう。それが「火のみち」なのである。目標達成近くで脳梗塞に倒れ、55歳の若さで青磁に憧れながら死んでしまう。この生涯を追ってテレビカメラが回された。「汝窯の青に魅せられ、その天青色に生命を捧げた男」として、窯から吹き上げる炎が随所に織り込まれ、あくまで妥協を許さない、次郎の激しい生き方がドラマチックに強調されたドキュメンタリー番組「火のみち」が彼の死後、年末の特別番組として放送された。
南部次郎の一生は、常に自分は殺人を犯したのだという罪の意識を背負い込み、惨憺たる不幸なものではあったが、陶芸に生きる道を見つけ、また青磁の再現と言う大それてはいるが立派な目標を持って力いっぱいに生きた。挫折したような形で終ってしまったが決して無意味な人生ではなかった。読者にもそのあたり、充分に考えさせられるものがある。「求めるものは何か」、しっかり目標を定めて、一生を有効に過ごさなければならないと思った。  (了)