カメラマン

今、読んでいる立松和平著「猫月夜」に一カメラマンの仕事への情熱と生活との葛藤がよく出ている。大自然の偉大さに魅せられた男は、レンズを通して自然のありのままを鋭く切り取り、フィルムに収めていく。そこには厳しさがあり、感動がある。彼は撮影機材を担いで世界中を渡り歩き、地球を何回りもした。特に厳寒の極地や真夏の砂漠地帯、野生の猛獣の生き様を撮りにジャングルの奥深く分け入ったりして、世間をあっと言わせるような名作品をたくさんものにしていった。一応、結婚はしているが、自宅にはほとんど居ず、旅にばかり出ている生活となった。残された家族の方はたまらない。とうとう8年後、かわいい娘もいるというのに、奥さんから離婚を申し渡され、しぶしぶ承諾させられた。また、2度目の結婚にこぎ着けるが、こうした生活ぶりが直るはずもなく、相変わらず「ブーブー」文句を言われ続けている。仕事の方は彼の情熱が認められて名声を博すようになり、益々油が乗ってくる。そして…、こうしたカメラマンの最後は、危険を顧みずに良い作品を撮ろうとするあまり、自らの命を落してしまうのだ。“仕事優先を極めた結果の死”。彼としては本望なのかもしれない。立派な葬式が出された。彼はアフリカで“砂漠象”を撮っている内、間近で象の怒った仕草を是非にカメラに収めたいと思った。しかし、それを撮れた暁に自分はどうなるか、十分に予測も出来た。そして突然に、その機会がやってきてしまったのだ。象が目を怒らせ、長い鼻を打ち下ろそうとする瞬間をパチリッ…、これが彼の最後の名作品として全世界に知れ渡り、式場にも大きく飾られた。
これは小説だが、現実にもある。本日の読売に出ていた。アラスカを拠点に撮影活動を続けていた慶大出の写真家、星野道夫さんは、12年前にカムチャッカ半島で、ヒグマに襲われ命を落とした。カナダの友人が彼を偲んでトーテムポールを建てるというニュースである。
本当の仕事には命をかけるものかもしれない。    (了)