チンパンジー

昨日、NHKテレビでアフリカのチンパンジー社会を丹念に撮ったドキュメンタリー番組を観た。
60頭位のグループで時のリーダーが4年の統治の後、次のリーダーへ取って代わられる様子が興味津々であった。以前のリーダーでめっぽう強かったが政権交代時に激しい争いをして負けを認めず、結局全身に痛手を受け、それが元で死んでしまった者もいた。今回のリーダー“ブロウ”は割と臆病で、タイミングを見て降参、うまく生き延びている。この政権争いに大きな役割を演じた老チンパンジーがいた。時のリーダーといえども、この長老を仲間にしておこうと、しばしば寄ってきては毛づくろいをしてやって親愛の情を示していた。次期リーダーに名乗り出ようとする血気盛んな“ピグ”もおもしろいことにこの長老のところへ挨拶にきて毛づくろいをしていた。やはり仲間になってもらいたいらしい。
さて、いよいよ機が熟してきたある日、“ブロウ”がひとりでいるところを狙って“ピグ”が目の前で派手にパフォーマンス(示威行動)を繰り広げ、怖がった“ブロウ”はしきりに仲間として頼りにしている長老に助けを求めてキーキー啼いた。そこに長老が駆けつけるが何と“ブロウ”の方へ飛び掛っていった。彼がもはや“ピグ派”であることを鮮明にされて“ブロウ”はなす術もなくあたふたとその場を逃げ去っていく。これで政権交代劇は終わり。“ブロウ”は以後、“ピグ”と出くわすたびに皆の前で従順を示すしぐさ(口をあんぐり開けて相手の眼前へ持っていく、まるでキスをするようなしぐさ)をしている。この挨拶がないと許されないらしい。
例の長老はといえば、このままでは終わらせない。政権を失った“ブロウ”がもうとっくに50歳を過ぎた母親(群れの中で2番目の長寿)の元で毛づくろいをしながら寛いでいるところへ出向いていって“ブロウ”の毛づくろいをし始めた。敵に回したままにはしないで、これから又仲良くやっていこうという意思表示なのである。
一つの群れは10キロ四方くらいの縄張りを持ち、隣り合わせに他の群れが2つほどある。この長老は、お家騒動が下手に長引いたりすると、他の群れに攻め込まれる恐れもあり気が気でなかったようだ。政権争いにも一役買ってうまく乗り切った。中々見上げた役どころである。
なぜ、オスはリーダーになりたがるのか。このグループの中でオスは20頭位、他はメスと子供達であり、メスの子供達は20歳くらいになると他のグループへ移ってしまうのだという。オス達はずうっと残るが、ちゃんと順位が付いていて、リーダーになれればメス達にもて、たくさん子孫を残せる。この長老も若かりし頃、一度当時のリーダーに闘いを挑んだが、耳を食いちぎられ(今でもその後が残っている。)勝てなかった。しかし、この思慮深さと優しさのお陰で人望(?)があり、仲間から一目置かれる存在になっている。
人間に一番近いと言われるチンパンジーから何を学ぶか。この世知辛い世の中、生活環境は悪化の一途、縄張り争い、リーダーへの夢、餌の取り合いの中で、基本的にはお互い助け合い、秩序ある社会を形作って活きている“社会性”をしっかり身につけないと人間も幸せに生きてはいけない。そして“栄枯盛衰”“禍福はあざなえる縄の如し”、逆境にあっても決してめげてはいけないし、また、幸せの絶頂にあって有頂天になってもいけない。“中庸”の良さを思い知るべし。(了)