葡萄の苑

12月8日(土)、音楽劇団、熊谷組の25周年記念オペラ公演「ぶどうのその」を観てきた。場所はティアラ江東(江東公会堂)であった。たっぷりと2時間、この意欲的な創作オペラを堪能できた。まず、物語の筋書きがおもしろい。したたかな魔女が、ある豊かな国の幼い王子の乳母になりすましていた。国の民に慕われていた王妃は死に際、その乳母に真珠を散りばめた見事な王冠を預け、王子に自分の伴侶としてふさわしい人にこれを授けさせるように言い残す。魔女は、これ幸いと一計を案じ、この国を乗っ取るべく王子に対し、死に際の王妃たる母上に、この冠をはなむけに被せてあげなさい、とそそのかす。王子は言われたとおりにしようとするが、つまずいた拍子に横にはべっていた乳母の頭に、その冠を被せてしまう。驚いた乳母(魔女)はあわてて逃げまどうが、それから定められた運命が非情に動き出す。20年後、すっかり成人した王子は国王となり、魔女の巣窟へ逃げ帰っていた元乳母を探し出し、お城へ連れ帰ってお妃とする。それから10数年、魔女の力を存分に発揮させて、国は大いに栄える。しかし、やがて魔女の神通力も失せ、魔女は突然倒れて死んでしまう。齢まさに八百うん十歳であった。国の民へ豊かさをもたらす等、良いことをやり過ぎたとして魔女仲間から制裁を受けたらしい。国は疲弊し、国王は見放されて一巡礼として諸国を流浪する身となってしまう。
更に数十年後、南の国から葡萄の苗とともに豊かさが持ち込まれ、この地方にもようやく光明が射してくるようになるが、それを見届ける元国王は年老いた一巡礼のままで終わる。ちょっぴり悲しい結末だが、全体としてよく出来ている。演技者の魔女3人、それに国王とそれぞれ個性豊かで声も良く通り、その他の各場面も見せ場が多く良かった。また、そのバックの音楽がその場その場の雰囲気をしっかり盛り上げていて大変良かった。ロングランを続けている劇団四季の「ライオンキング」に引けを取らない、と思った。ただ、あちらの方は舞台装置に小道具、そして照明に対しての力の入れ方が数段上を行っている。この日、昼夜2回の公演で終わってしまうのは惜しい。是非にと又の公演の機会を渇望する者である。いいものはいい!である。    (了)