「トナカイ月」を読んで

sadoji2005-12-06

表紙がきれいなものでヒョイと手に取り、ナントはなく読み出した本。これが何と今まで知り得なかった原始人の生活ぶりの活写、というかその中に生きてきた一人の女の子ヤーナンが主人公の物語で、周りの動物たちとの葛藤をこれ程身近に、真にケモノたちの臭いや鼻息が吹きかかるような迫力で迫ってくる読み物は他にないであろうと思われた。
ヤーナンは決して幸せな一生であった訳ではない。なまじ男に負けないくらいの狩りが出来たので、この時代の女としての分をわきまえられず羽目を外してしまうが、彼女の叡智とたくましい生活力がなかったら、もっと早々と一生を終えていたことも間違いないところだ。特に幼い妹とたった二人での長い旅の途中、狼親子の巣に迷い込んでしまい、しばらく同居して生き延びるくだりは、人間も動物も全く同列、もしくは自然界の中の生き物の一種として狼世界の尊厳性すら感じる。現在、人間だけがはびこり過ぎた。必ずや、この弊害というかしっぺ返しは起こるであろう。
有史以来二千年、人間社会として約七千年〜二万年、宇宙の生成過程のほんの一ページを人間が我が世の春と謳い上げたが、次の世代は何がくるだろうかと思いを巡らさざるを得ない。
人間は、地球をゴミだらけにし、大気汚染を繰り返し、地球の環境破壊による異常気象を呼び、ついに自ら消え去った。これに人間達だけではなく、その時点で居合わせたあらゆる動物達を巻き添えにし、次の世代が始まるのにわずかな原虫しか残さなかった、ということにでもなるのかな、とこんな現状の人間による地球支配を憂いたくなる程、この「トナカイ月」は考えさせられる奥深い本だ。作者のエリザベス・M・トーマスに敬意を表する。彼女はちゃんとアフリカでブッシュマンと二年間生活し、そしてまた、古代の時代考証をしっかりとして想を練り、これを仕上げている。素晴らしいの一言につきる。
主人公のヤーナン、妹のメーリ、それに母親のラップウイング、父親のアヒー、そして家長のグレイラグ、その他スウィフト、ティール、アイナと登場人物の名が次々に思い出されてくる。これから私も人間としての本質を良く掴み、他に迷惑をかけず、むしろ人のため、人類のこれからのために少しでもプラスになるように精一杯頑張っていこうと思う。地球を大切に!  (了)

トナカイ月―原始の女ヤーナンの物語〈上〉

トナカイ月―原始の女ヤーナンの物語〈上〉

トナカイ月―原始の女ヤーナンの物語〈下〉

トナカイ月―原始の女ヤーナンの物語〈下〉