美術展

芸術の秋たけなわといった頃になったが、私の所属する“つばさ会美術展”は先週、早々とフィナーレを迎えた。毎年、6月〜9月にかけて府中基地を皮切りに、3つから4つの基地を巡回して、最後はいつも埼玉県の入間基地での開催となる。
この“つばさ会美術展”とは、航空自衛隊のOB会で、その内、絵画や写真、書道に彫刻、それに陶芸等の趣味を生かしている有志が年に一度、作品を持ち寄って、各基地の現役の人達との共催で開く美術展である。年々、OBは増え続けているのに、作品を出す人達は決まってきており、中々新人発掘が難しい。
私も毎年、油絵を一点は出すことにしているが、題材をあらかじめ決めておき、5月の連休中に2〜3日使って一気に描き上げ、何とか期日までに間に合わせている。参加することに意義があり、後は各基地の開催日に注意を払って、近傍であれば1回は見に行くのを楽しみにしている。
展示されている作品は、流石に皆素晴らしく、どれも人生の重みが感じられる。今や我国は65歳以上が5人に1人の高齢化社会を迎えたが、作者も高齢者が多いにかかわらず、実に若々しく溌剌とした仕上がりに、創作意欲の大切さをしみじみと感じる。
入間基地での昼食会で、たまたま隣り合わせた、先輩のI氏の油絵「マラケシュの壷屋」の作品が、いかにも現地の雰囲気を醸し出す、いい色調を出していたので、その制作秘話等をお伺いしてみた。マラケシュは、モロッコにある古い街で、絵を描くコツとしては、まず、狙い定めた目標物をあらゆる方向から写真でバチバチと撮っておき、宿舎に帰ってから、その場の感覚が失われない内に、キャンバスなりスケッチブックに大まかな構図とそのポイントを描きとめておくのだそうで、成る程と思った。
そういえば最近、野外でキャンバスに向かって絵を描いている人をあまり見かけなくなった。せわしい世の中になってきたものだ。
もう20年も前になるが、夏休みの頃、麦藁帽をかぶり、手賀沼のほとりでイーゼルを立てて、30号の大作に挑戦したことがあった。5、6才の男の子が「あっ、絵描きさんがいるー。」と近寄ってきて、つぶらな瞳でしばらく見ていた。一緒にいた母親は、絵を見ようとしない。きっと、絵を見たら、黙っているわけにはいかないと思ったのであろう。(了)