講義録から

東洋ゴム工業(株)の片山松造会長とその他の方々が先般、神戸大学の国際文化学部で講義した内容が、講義録として一冊の本になり、「自動車関連産業からの国際化と異文化交流」との表題がついている。
この中から、若干の記事を拾ってみよう。
「1960年代にタイヤのラジアル化というのが起こってきました。
欧州ではミシュランピレリーというタイヤメーカーが、ラジアルタイヤを開発しました。
これはどういうものかといいますと、これまでのバイアスタイヤはタイヤの中にバイアスの、つまり斜めに補強糸が入っています。
これを横にしよう。タイヤの中心から見ますと放射状、ラジアル状にですね、タイヤに横糸を使おう。そうすると発熱が抑えられる、高速に走れるという利点がある。
こういうのがラジアルタイヤです。
タイヤの中心から見てラジアル状、放射状に使うと、上から見て、糸は横に入っている。で、それによって、タイヤのクッション性・強度という面で今までより良くしていく。
ただし横糸だけですと、動くとバラけます。だから縦にスチールのベルトを入れる。
このようにタイヤ構造にも変化が出て参りました。
その時に私ども日本のタイヤメーカーは「いずれこれはラジアルの時代になるぞ」と考えました。バイアスタイヤはバイアスに入っているために非常に柔らかです。けれども速く走ろう、あるいは短い距離で止まろう、あるいは長持ちしよう、というふうなタイヤに要求されるいろんな要求を取り入れるには、やっぱりラジアルのほうが良かろう。こういうことで私どもはイタリアのピレリータイヤから技術導入をしました。
その時に一つ大きなことが起こりました。何かといいますと、アメリカのタイヤメーカーは、そういうタイヤの構造の変化に対して横を向いていた。つまりラジアルタイヤの時代になるということに対して、非常に批判的であったわけです。
アメリカのメーカーはベルテッド・バイアスと称する技術開発度のちょっと中間的な構造のもので競争できると思っていた。もちろん、切替えるには今迄の設備が駄目になるという事情もあった筈です。
その後、ベルテッド・バイアスはラジアルに負け、かって世界の五大タイヤメーカーと言われたアメリカのタイヤメーカーで、今残っているのは唯一グッドイヤー一社です。
ファイアストンは日本のブリヂストンに買収されました。
グッドリッチとユニロイヤルはフランスのミシュランに買収されました。
アメリカのゼネラルはドイツのコンチネンタルタイヤに買収されました。
こういうふうに、時代の動きを見誤ったメーカーは、いずれどこかに買収されるか倒産して
なくなるか、というふうに非常に恐ろしくなるような判断を我々はしていく必要があります。」
自動車に於いても、アメリカのビッグ・スリーに陰りが見え始めてきている。
栄枯盛衰は世の常なり、と簡単に割り切ってしまえる話ではない。      (了)

自動車関連産業からの国際化と異文化交流―神戸大学国際文化学部講義録

自動車関連産業からの国際化と異文化交流―神戸大学国際文化学部講義録