読書

連日の暑さに心身共にへこたれ気味、とても骨のある本には手が出ず、気楽に読めそうな「けだるい無性(むせい)」(冨士本由紀著)を借りてきて読んだ。
作者は’94年「包帯をまいたイブ」で小説すばる新人賞を取り、選考委員の阿刀田高氏から文章の巧みさを高く評価されている。
狙いどおり、あまりしゃちこばらずに読めた。
主人公カオルは、父親がジャズ喫茶を開いていたためか、小さい時からそうした方面の感性があり、学生生活から社会人として世に出ても自堕落な、まわりに迷惑をかけるような人生を送りつつも、何とか自分の生きる道、この世の中での存在意義を見つけ出すまでの話で、文章の巧みさに相俟って、実際にありそうな現実性が渦巻いていて引き込まれてしまう。
この主人公の気儘でマイペースの生き様を見ていると、この人はA型ではないな、B型あたりかな、と思えてくる。
まわりの友人達は結構、心の温かい人達で、この小説に仄かな明かりが一貫して射しているように思え、救われる。
話の中に薬物中毒になりかかるという危ない内容も、サラリとよく書き込まれている。
気楽に読んだつもりだったが、読み終えていい本だったな、という好印象を受けた。
新人賞を取ったという作品も是非、読んでみたいと思った。      (了)

けだるい無性

けだるい無性

包帯をまいたイブ (集英社文庫)

包帯をまいたイブ (集英社文庫)