読後感

源氏物語をようやく読み終えた。作者の非凡さに目を見張る。とても1000年も前の作とは思えない。物語の進み具合、発展の仕方からして、現代人の私達にもハラハラドキドキ、次々に読み進みたい気持ちにさせる。人の感情、感覚の捉え方、表現の仕方に何の隔たりもなく、すんなりと入っていける。瀬戸内寂聴訳であるので彼女の訳し方がまた、とても素直でいいのだと思う。これは出家物語でもあると訳者が評しているが、訳者当人が出家の身であり、誠に当を得た作品となったのであろう。
さて、特に印象に残るのは、やはり宇治十帖の浮舟である。薫大将と匂宮とが浮舟にからみ合い、彼女の生き方をメチャメチャにしてしまう。すべてを語り尽くすのではなく、最後をボカすあたり、にくい。
特にこの頃はといえば、男性あっての女性であるが、危なっかしい男性陣の生き様からして、女性の影響力の大きさ、女性の力を至る所に見せつけられる。
女性たちの中で、誰が一番幸せだったかと言われても、紫の上もとうとう仏門に入れずに死んでいった可哀相な人と言われれば、強いて誰それと挙げることもできない。皆それぞれに悩みをかかえ、日々の暮らしに不満を持って生活している。宇治の大君など、何故あれほどまでに自分を押し殺して一生を終えなければならなかったかと惜しまれる。世の中無常、栄枯盛衰うたかたの如し、仏門に帰依してようやく心の安らぎを得られるもの、という無常観が残る。かといって、華やかな生活を頭から否定しているのではなく、一応人生をそれなりに味わってみてから後、読んでみてから後の正直な印象として、そのように残った。
現代はもっと自由な生活がある。しかし、精神的なより所をどこに求めていくかが重要な課題である。 (了)