現役力

「こうして磨こう、高齢期の“現役力”」と題した養老猛司氏の講演(月刊誌ELDERの1月号)から抜書きしてみよう。
「歳をとると、脳に何が起こるかといいますと、一般的にいって脳味噌の大きさは小さくなります。面白いのは、60歳を過ぎた人の脳の大きさは完全にばらけてきて、減る人はどんどん減り、減らない人はそんなに減らないんです。つまり、個人差がはっきりしてくるんです。人間は、ある年齢までは子供をつくる能力があります。そういうことは、頭脳がまともでないとできないですから、それを進化の学問の世界では淘汰あるいは選択、自然選択とといっています。この一定段階からの年齢の人は、ほとんどの人が子供をつくれないので、いってみれば、個人としては付録みたいになります。付録の部分は生き物にとってはどうでもよろしいのです。後世にはほとんど影響がないのですから。そうしますと早くぼけようがゆっくりぼけようが、選択がかからない分だけ、遺伝子がもともと持っていた多様性がそのままきれいに発現してきて、脳の大きさには個人差が生じてしまいます。」
うつ病は、眠れないという症状から始まるんです。どうして眠れないかというと、うつ病というのは気分が低下してきて、暗い気分になる。暗い気分になっているときというのは頭も働いていません。基本的に働いていない頭は休む必要がありませんから、眠れないのです。
高齢になって不眠がちの方は、頭を使われることです。中学校の教科書でも何でもいいですから、しっかり勉強されたら必ず眠くなります(笑)。人と付き合うこともいいです。我慢して人と付き合う、そういうことをやったら、必ず眠くなります。」
「体を動かすことは非常に重要です。体を動かさないでいると、脳が学習をしなくなります。長い間学習をしないでいますと、生き物は非常によくできていまして、いらない部分を省略していきますから、脳はどんどん使えなくなります。年配の方はよくお分かりだと思いますが、体を動かさないでいると、一生動かないという状況に陥ります。」
「脳の働きにおいて手の動きが占めている割合が非常に大きいことが分かっています。手や指を絶えず使うということが脳を訓練することになります。」
「すべての情報は過去のものです。インターネットやニュースに詳しい人に、先行きに不安を感じませんかと尋ねてみてください。必ず「不安です」と言いますから。そりゃ、後ろ向きに歩いているのだから、不安に決まっていますよ。人間が生きていくというのは、予測できない闇に対し前向きに歩くということでしょう。」
「ご自分が大事だと思うことだけを分かっており、それで前向きに歩いていくのが、私は一番素直な生き方だと思うんです。」                 (了)