スクラム

今朝方も大変な通勤地獄に遭った。いつもの、というよりやはり家を出たのが10分遅れで、霞ヶ関行きの2本後に乗って、柏で快速に乗り換え、上野まで行った。外回り東京方面行きのホームが満員の状況である。
マイク放送が入った。「新橋ー浜松町間の線路点検のため、山手線の外回りは運転を休止しています。お隣の京浜東北線をご利用ください。」と繰り返し言っている。階段を人込みに押されながら、そのままホームの人となった。右側に山手の電車がそのまま停まっており、「この車両は運転を休止します。」との放送の中、まだ1/3位の人が乗ったままである。京浜東北線がスルスルと入ってきた。ほんの少し降りる人がいて、あとはどっと入口に押し寄せる。ホームの前方に居た人達がいくらか捌けた程度である。駅員が「ロープ、ロープ、入場規制を実施しよう。」と慌て出した。こんな通勤の大切な時間帯(丁度、朝の8時頃)に、よくまあのうのうと線路点検なんかやってられるよ、という気がする。というのも、安全運行が大原則のJR側の、やむにやまれぬ処置とは思うが、「線路点検を実施している」だけでは説明不足で「何で」という理由が欲しい。
「爆弾が仕掛けられた情報が入った。」とか、運転手から「線路の犬釘が数本、抜けているようだ。」と言って来た、とか生々しい情報は公に出来ない場合もあるとは思うが、もうひとつ突っ込んだ説明がいるのではないかと思った。
片方の京浜東北線が3分おき位に次々と来るので、4〜5台を見送れば何とか乗れる順番が回ってくるという予測があり、待っている人達も殺気立った様子はない。しかし、この狭いホーム上での立錐の余地もない大混雑の中、順番待ちでそうなるとはいえ、ホームの一番前に立つのは怖い。電車がギュウギュウに人を詰め込んで、ユルユルと走り去った直後に駅員が「すみません、ホームから半歩、後ろに下がってください。ご協力をお願いします。」というと、皆がそっと後ろに下がるあたり、ラグビースクラムを組んでいるようで、一体感というか、妙な絆が生まれる。
いよいよ私の乗れる番がきた。前から2列目である。電車が止まり、3〜4人が降りて、それっと入口に殺到した。私の左側にいたOLが戸口に手をかけて乗ろうとしたが「痛いっ」と手を引っ込めた。私の方は戸口の左隅に押しやられ、モミクシャになりながらも何とか乗り込むことが出来たが、例のOLは乗るのをあきらめ、左手を痛そうに右手で押さえている。ドアが何とか閉まり、出発する頃にはその人は顔面蒼白になり、その場に座り込んでしまうのが窓越しに見えた。きっと、手の指の骨にヒビでも入ったのではないか、重傷だ!と心配になった。
どこでどう災難に巡り会うかわからない。あのような混雑した場合、安易に手指を使って頑丈な物を掴もうとしてはいけないのだ。その後の状況がわからないが、まわりの人達も彼女に手を差し伸べてくれることを望む。彼女も危険なホームの一番前の場所から早く身を引き、駅員に率先して申し出るなり、自分の立場、状況を好判断し、行動する冷静さが必要である。
人事ではない気がしている。
秋葉原まで4分、総武線に乗り換え、市ヶ谷駅に着いた時は、いつもより30分の遅れで済んだ。今日は遅刻ではない。                        (了)