精神科医

エイリアニスト(精神科医)上、下巻(ケレレブ・カー作)を1ヶ月近くかけて読み終えた。非常に内容が濃く読むのに骨が折れたが、同時に読み応えがあった。
ニューヨークのマンハッタンが舞台での度重なる猟奇事件に世間を震撼とさせるが、ひとくせもふたくせもありそうな5人組の特別捜査チームを編成し、科学的分析を駆使して犯人を追い詰めていく内容で、知らず知らずの内に中に引き込まれていく。
結局は野獣のような狂人と見られていた犯人も生い立ちがそうさせているのであり、当人の脳は全く正常で狂っていたわけではない、と結末で強調されていた。以前読んだ“シイラ”を思い出すが、生い立ち、特に父親や母親の影響というものが大きく、その人の人生を左右する。正にこの犯人は、この世に生を受けた時から母親から憎まれ、世間から蔑(さげず)まれ、人との接し方はそれしか知らないで育ってきた。人間のクズと一言で無視されそうな者にしっかりと光を当て、主人公の一人として生き生き(?)とその生き様を活写している作者の筆力は見事という他はない。
特捜班のラズロー・クライスラー博士(精神科医)、ジョン・ムーアニューヨーク・タイムズ記者)、サラ・ハワード(ルーズヴェルト市警総監の秘書)、それにアイザックサン兄弟(マーカスとルシアス、それぞれ部長刑事)にセオドア・ルーズヴェルト(後の大統領になる人物をここに登場させている。この中ではニューヨーク市警総監)、元警視や教会の大司教ニューヨーク市長、犯罪組織のボス等、社会生活を構成する主要な人物を入り組ませて話が展開していく。またまた、これを読み終えて、ひと回りくらい私も進歩したような気分である。
犯人を捕まえて、クライズラー博士が一種の同情を交えて尋問を続けようとするが、熱血漢のムーアは彼の制止も聞かず、怒りに我を忘れて撃ち殺してしまう。最後の最後まで沈着冷静なクライズラー博士には(そしてサラにも)驚かされる。いい本だ。
犯人を宅間守とダブらせてしまった。           (了)

エイリアニスト―精神科医 (上) (ハヤカワ文庫 NV (925))

エイリアニスト―精神科医 (上) (ハヤカワ文庫 NV (925))

エイリアニスト―精神科医〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)

エイリアニスト―精神科医〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)