るりはこべ

sadoji2005-11-01

「るりはこべ」(上、下巻)丸山健二著を読んだ。やや大型の日本犬、しかも野良犬が主人公で、人間と変わらない知能を持ち、しかも犬特有の嗅覚と行動力もある。まわりの登場人物は世間から、はみ出したような自由人、変人で、彼らと自由に組んで、野良犬としての何者にも束縛されない独立独歩の自信と誇りを持ちつつ、事件に関わりあって行く構成が面白い。反社会的で割りと退廃的な思想に裏打ちされた動きを見せるが、人間社会の不条理さを痛烈に批判しているといったところであろう。
ある事件の目撃者としてノウノウとつぶさに見ていた所、首謀者達に見咎(みとが)められ、「人間っぽい犬だなあ、ついでに始末しておくか」とジープで追いかけられて、すんでのところで横っ飛びして崖下に転がり落ち、一命を取り留めるあたり、その場の状況が目に見えるようである。不測にも野犬狩りに捕まってからの可哀想な仲間達の観察、捕まえた人間達の、研究材料としての勝手な扱い等の描写にも迫力がある。“自由”、“解放”と前足で書いて見せて人間達を驚かせ、マンマと逃げ出すあたりは、お愛嬌である。
全編の至る所に出てくる野辺に咲くルリハコベの目に染みる青が、ともすれば荒(すさ)みがちな心を癒し、明るい未来へと誘(いざな)ってくれている。幼い兄妹に主人公の野良犬が勝手につけた名前、“画伯”と“花蜂”に一筋の未来を託して物語は終わる。
難しい字も多く(塒が最後まで読めなかった。ねぐらと読む。)、骨ばった文章に取っ付きはあまり良くなかったが、次第に引き込まれてしまった。好印象の残る本である。 (了)